コラム
RFIDとは?②~UHF帯パッシブRFタグ編~
前回の記事では、「RFID」全般に関する基本的な内容をご紹介しましたが、今回は、昨今大手アパレルでの採用で広く認知されてきたUHF(920MHz帯)周波数の電波を使う電池を持たない(パッシブ)タグに焦点を当てて、その特徴や導入に際してのポイントをご紹介していきます。
もくじ
概要
昨今、「RFID」といえばUHF帯パッシブRFタグを使った仕組みのことを指すことも多くなり、まさしく狭義の「RFID」とも言えるような様相を呈しています。
しかし、その歴史は比較的新しく、2005年に950MHz帯の周波数利用が認可されたのがスタートで、その後2012年の電波法改正(某携帯キャリアへ割当てるためにRFIDは950MHz帯から立ち退かされる)により920MHz帯を利用するようになりました。
この周波数帯のパッシブRFタグは、構成要素が単純(微小なICチップと簡単なアンテナ)であることから、大きなロットで量産すれば単価を安く出来るという理由で、あらゆる「モノ」への装着が想定されていました。
特に以下のような特徴から、流通業や製造業における物流用途で当初より大きく期待されており、現在まさにその用途を中心として活用が進んでいます。
- 数cm~十数mの範囲をカバーできる
- 一度に多くの物品を認識することができる
- 梱包を解かずとも内容物を確認することができる
※ただし、比較的強力な電波をタグに向けて照射する必要があることにより、人や動物への利用は敬遠されることが多いようです。
物品用RFタグ導入検討におけるポイント
「RFID」を使うことで非常に利便性の高いシステムを構築することが可能ですが、決して万能ツールではありませんので、導入を検討する場合は「RFID」の各種特徴などをしっかりと理解しておくことが必要です。
ここでは、管理対象となる物品にUHF帯パッシブRFタグを装着したシステムを検討する場合のポイントをいくつか挙げて説明します。
RFタグが本当に必要か?
物品を個体識別するツールとしてはバーコードやQRコードなどもあり、それらのコストは一般的にRFタグより小さくて済みます。
したがって、RFタグでないと運用ができない場合や、断然効率が上がる場合など大きい効果が期待できるかどうかの見極めが必須です。
タグは使い捨てかリユースか?
最終的に一般消費者に届くような製品に装着するタグは使い捨てに、事業所内でのみ利用する材料などはリユースとする例が多く見られます。
リユースの場合はタグの付け替えやシステムへの登録変更での作業負荷が大きく、タグの単価が高い場合以外は使い捨てにする方がトータルコストを低く抑えられることもありますので、詳しい検討が必要です。
物品コード等との紐付作業を負荷なく行えるか?
RFタグ利用システムでは、物品との紐付(タグの発行)と装着作業が最も重要なポイントだと言っても過言ではないでしょう。
この作業が負荷なくできるのであれば、それ以降ではタグを読み取るだけで利便性を享受できるため、システム全体として上手く運用できる場合が多いです。
読み漏れした場合に対処出来るか?
比較的長距離から数多くのタグを一度に読み取りできるところがUHF帯パッシブRFタグの最大の長所ですが、その反面、全てのタグを一度で読み取りできないことも多く、運用時に常に100%読めたかどうかを検証できる仕組みが必要になります。
一般的には、想定している物品のID(理論値)に対して実際に読み取れたID(実績値)を消し込み、全てが消し込まれたことで完了とします。一度で消し込めない場合には何度か繰り返して読み取りますが、もしそれができない場合には一度で確実に100%読み取れる方策を講じる必要があり、システムのコスト増になることもあります。
読み過ぎた場合に不要な分を除く方法があるか?
920MHz帯の電波は障害物に対して回り込みやすい性質を持っていますし、金属に当たれば必ず反射するため、思いもよらない場所にあるタグを読み取ってしまうことがあります。
そんな場合には、不要なタグを除いてシステムに登録する必要がありますが、どれが不要なタグなのかを確実に認識する方法が必要になります。(例えば、「出荷済タグ」等システム上のステータス等で判別)
もしそれができない場合には、絶対に不要なタグを読み取らない方策(例えば電波シールドされた空間を作り、その中で読み取る等)が必要になり、システムのコスト増につながります。
タグが故障した場合のバックアップを持っているか?
タグといえども小さな電子機器ですので、予期せぬ衝撃、温度湿度の急激な変化、経年劣化など様々な原因で故障し、読み取り不能になることがあります。そんな場合でも業務に支障をきたさないために、何かバックアップを持っておく必要があります。
一般的には、タグに目視できる情報(文字列、バーコード、QRコードなど)を印字しておく方法が、低コストで運用しやすいです。
導入しやすいケース
金属や液体の影響を受けにくい場合
920MHz帯の電波を利用するRFIDシステムでは、RFタグ取付対象物品が金属や液体の場合に、電波の反射や吸収の影響を強く受けて期待する結果が得られないことがあります。
たとえ取付対象物品が金属や液体でない場合でも、周辺環境にそれらが存在していれば、電波の振る舞いが乱れて上手く運用できないこともよくあります。
現在、活発な運用事例が見られるアパレル業界は、タグ取付対象物品の多くが繊維製品であり金属や液体がほぼ存在しないという点でRFタグにとって非常に有利な条件であったと言えます。
物品の種類やサイズが揃っている場合
RFタグ取付対象物品の種類やサイズがバラバラな場合には、タグの種類やサイズを同じモノに出来ないことが多く、さらに発行(物品とタグの紐付)や読み取り等の運用方法を統一することも難しくなります。
物流で利用するパレットや通い箱、フィルムや織布などロール状で流通する産業資材等は、素材の種類もサイズもほぼ統一されているため導入しやすいと言えます。
よく実施される対策の例
RFIDシステムでは、電波の振る舞いを想像しながら現場で様々な対策が求められます。
ここでは、それぞれの運用場面でよく実施される対策の例をいくつか挙げて説明します。
金属用タグ選定/取付
物品の素材やサイズ、取付場所や運用方法によってタグを選定しますが、この時最も工夫する必要があるのは、素材が鉄やアルミなどの金属の場合です。
金属に一般的なラベル状のタグを直接貼り付けてもリーダで読み取ることはできないので、下記のような対策を施します。
- タグのアンテナが金属から離れるように取り付ける
- 金属をアンテナとして利用する特殊なタグを利用
間違いの無いタグ発行(紐付)
先にも述べたように、RFIDシステムではこの場面が最重要ポイントになります。
タグのIDと物品の識別IDが間違いなく確実に紐付けられてシステムに登録されなければなりません。
生産ライン上で製品が出来上がると同時にタグを取り付けること(ソースタギング)が出来れば問題はありませんが、既に出来上がっている物品に後でタグを取り付ける場合は特に注意が必要で、紐付対象のタグ1個だけを読み取るように下記のような対策を講じることが多いです。
- タグリーダの出力を小さくする
- 金属でシールドされた場所内で紐付作業を行う
- 他のタグを紐付場所から遠ざける(又は、アルミなどの金属でシールドする)
- タグのRFIDを読まずに、タグに印字されたバーコードやQRコードを読む
タグの干渉による読み取り漏れ防止
タグ自体のアンテナは金属で出来ているため、タグが重なり合うと読み取りの障害になりますので、タグが近づく可能性がある場合は何らかの対策が必要です。
課題と期待
アパレル業界での普及により、ここ10年程で一般的なRFタグの単価はずいぶん下がって来ました。
耐久性を高くする加工が施されたタグでも、数百円から数十円でラインナップされており(※発注個数によります)、システムを運用する際の消耗品コストという点においては、ハードルが低くなったように感じます。
一方、RFタグを読み取るリーダ(書込もできるため一般的にはリーダライタと呼ばれる)に関して言えば、1台あたりの価格はスマートデバイスと連動して利用する安価なものでも10万円前後とそれなりに高額で、システム導入時の障壁になっています。
今後の技術革新により、例えばスマートフォンに標準的にRFタグのリーダライタが内蔵されるようになれば、RFIDシステムはさらに広範囲な業務で利用されることでしょう。
そんなに先の話ではないその時に備えて、まずは事業所内の一部からスモール導入してみるのも良いかもしれません。
きっとそれがDXのきっかけになるのではないでしょうか。
次回は、UHF帯パッシブRFタグを使った物品の位置管理についてご紹介したいと思います。
>>>『RFIDとは?③~UHF帯パッシブRFタグと位置情報編~』
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